人であれペットであれ、生きているのであればその向こうには死が待っています。病気や事故……老衰など死別の理由は様々ですが、多くの場合は飼い主様よりもペットが先に旅立ってしまうことでしょう。その時、飼い主はなにができるのでしょうか?ずっとそばにいてあげることも勿論大切ですが、果たしてそれだけがすべきことなのでしょうか?
近年ではターミナルケア(終末期医療)や安楽死などの考えもそれなりに浸透してきています。それだけ飼い主様がペットの死に対して真摯に向き合っているのでしょう。そして飼い主としての責任は死ぬ直前までではなく、死別してしまったあとにも残っています。火葬や埋葬、市役所への手続きなど最後まで飼い主としてやるべきことをしていくことが、愛犬への弔いとなります。
今回は犬が死ぬ前に見せるサインや、死別する前や後に飼い主がすることについて解説していきます。
目次
犬の死とペットロス症候群
愛犬との死別は悲しいことではありますが、だからこそ向き合わなければいけません。残された時間を意識して、愛犬のためにたくさんの愛情を注ぐためにも寿命や死亡理由といったワードから目を背けてはならないのです。
ここでは犬の死と、近年大きな話題となっているペットロス症候群について解説します。
犬の平均寿命と高齢期
事故や病気でなくとも、生物には寿命による死というものがあります。飼い主様としては、どれくらい生きたら長生きできたと言えるのか、どのあたりから高齢期とされるのか気になるところだと思います。そこで、まずは犬の平均寿命と高齢期のラインについて見ていきましょう。
さて、犬の平均寿命についてですが、実は嬉しいことに年々伸びていることが分かっています。一般社団法人ペットフード協会の全国犬猫飼育実態調査結果によると、令和3年現在の犬の平均寿命は14.65歳とのことで、これは2010年と比較して0.78歳も伸びています。現在では20歳を超える老犬もちらほら出てきており、これは人間換算で96歳前後だというから驚きです。
続いて犬の高齢期についてですが、小型・中型犬はおよそ7歳、大型犬はおよそ5歳程度からとされることが多いです。【多い】と表現したのは、実は犬の高齢期と定める基準は団体や会社によって微妙に異なり、ここで表記したのはあくまで多くの機関がこのくらいと定めているからでしかありません。
自分の愛犬が高齢期に入っているかどうかを確かめる際には、この基準を参考にしつつ、高齢期の特徴※1が見られるかどうかで判断しましょう。
※1 寝たきりが増える、昼夜逆転生活をしているなど
犬の死亡理由について
飼い主であれば誰もが自分のペットは天珠を全うして旅立ってほしいと願うものですが、残念ながらペットの死因の多くは事故死や病死です。また、この季節ならば熱中症で亡くなることも残念ながら珍しいことではありません。私達人間もまたそうであるように、安らかに眠れることの方がずっと難しいことなのです。
しかし、一方で寿命による死そのものは着実に増えています。医療技術の発達や飼い主様による手厚い看護によるものでしょう。病気は先天性のものももちろんありますが、【飼い主様による健康管理や食事管理】によって未然に防げるものや、早期発見によって完治できるものが多いです。
愛犬の健康を願うのであれば、そういった基礎こそ大切にしていきましょう。
ペットロス症候群とは?
少し本筋から逸れますが、皆様はペットロス症候群という言葉をご存知でしょうか?日本ではまだまだ馴染みが薄いものの、海外では比較的メジャーな疾患と言えます。実際、大統領や有名俳優などもペットロスと考えられる症状で苦しんでいた経験を持つ人は多いです。
ペットロス症候群とはその名の通り、ペットをロス(失う)ことで発症する疾患の一つで、倦怠感や情緒が不安定になる、身体の節々が痛くなるなどうつ病に似た症状が多く現れます。また完治するまでの期間も人によって大きく異なり、1ヶ月もせずに治る人もいれば1年以上経過しても治らない人もいます。
人によっては「ペットが亡くなったくらいで大げさな……」と思われる方もいるかもしれませんが、それは本当に人それぞれにしか分からない痛みです。現在では広く認知されているうつ病も、一昔前までは【ただの甘え】と切り捨てられていました。ペットロス症候群は立派な疾患です、無理をせずにカウンセラーや医者に相談してください。
犬が死ぬ前に見せるサイン
生物によってまちまちではありますが、【生命の終わり】には必ずサインが現れます。いつもよりも元気がなかったり、明らかに下痢や嘔吐が多かったり……そんな普段とはまったく違う状態は死に向かっているサインかもしれません。
ここでは愛犬が死ぬ前に見せることがあるサインについて解説します。
体温異常
死ぬ前の身体はまるで旅立つ前の準備をしているかのように徐々に冷たくなっていきます。これは代謝が行われなくなっていき、それに伴って体温が下がっていくためです。ただし、一部の病気や細菌感染の場合は逆に体温が異常に高くなることもあります。
食欲不振
これは病気や老化によってもよく起こりますが、死ぬ前のそれは明らかに違います。老犬のための流動食や水すら飲まなくなり、点滴でしか栄養を補給するしか無くなるほど極端に物を食べたり飲まなくなるのです。
無気力状態や寝たきりの状態になる
体調が優れなかったり気分が落ち込んでいるなどの理由から極度に無気力になっていたり、寝たきりの生活を送るようになります。ただし、高齢期や病気などによって寝ている時間が増えているだけの可能性もあるため、時々は声をかけたり身体を揺さぶるなどして反応を確認してください。もし反応がないなら、危険な状態ですので動物病院へと急ぎましょう。
呼吸の乱れ
死ぬ直前の犬は呼吸が急に浅くなったり深くなったりと不規則な呼吸の仕方をしますが、これはチェーンストークス呼吸と呼ばれるものであり、脳に酸素がうまく行き届いていない時にこの呼吸になります。
またそれ以外でも無呼吸、下顎呼吸、死前喘鳴※1などの呼吸が見られることがあります。いずれにせよ危険な状態なのは確かです。
※1 ゼーゼーと痰がからむような呼吸
下痢や嘔吐
下痢や嘔吐が止まらないのは死ぬ直前の行動としてはごく自然なことです。というのも、この状態は筋肉の弛緩や体力等の理由によって肛門や胃をうまくコントロールできていないために起こるもの。濡れたタオルなどで優しく拭いてあげましょう。
痙攣
いよいよ死期が迫ってくると、身体が徐々に動かなくなり痙攣を起こし始めます。この状態にまでなると意識も朦朧としており、眠るための最後の準備をしているとも捉えられます。痛みこそありませんが、怪我をしないように周りに家具や道具を置かないようにしましょう。
犬が死ぬ前や死んだ後にすべきこと
愛犬が死ぬ時は誰もが悲しい気持ちでいっぱいになりますが、苦しむ前にしなければならないことはたくさんあります。中には安楽死の選択や火葬など辛い選択をすることだってあるでしょう。飼い主として、愛犬のために最後まで責任を果たしていきましょう。
ここでは愛犬が死ぬ前や死んだ後にしなくてはいけない選択や手続きについて解説します。
安楽死について
皆様は安楽死についてどう思われていますか?「まだ生きているのに死なせるのは可愛そう」、「今まで苦しんできたんだからもう終わりにしてあげたい」、人によって感じることは様々だと思います。そして獣医師もそんな状況であることを考慮して自分の意見はさておいて、安楽死に関しては【飼い主の意思を尊重する】場合がほとんどです。
最後まで頑張って生きてほしい、苦しませるより安らかに眠らせたい、どちらも間違っていませんし、誰かにその考えを押し付けるものではありません。大切なのは飼い主としてペットを思うのならどちらを選ぶべきなのかを考えることです。
延命を選択した場合は確かに苦しむ時間が増えるかもしれませんが、それでも延命自体は成功する事が多いですし、それによって増えた時間でできることもあるでしょう。しかしそれはペットを苦しませ、また膨大な費用がかかってしまうことを意味するかもしれません。
安楽死を選択した場合は痛むことなく安らかにその生涯を終わらせることができます。しかし、【どんな形であれ自分が殺した】と罪悪感に苛まれ、ペットロス症候群を発症してしまうケースが多いです。
私達は犬の言葉を理解できませんし、その心を汲み取ることも完璧にはできません。だからこそ、周りの意見ではなく、自分の意思で愛犬のためにと選択する必要があるのです。
市役所への手続き
飼い主として愛犬の死を見届けた後も、すべきことは残っています。火葬や埋葬は勿論ですが、市役所で手続きもしなければいけません。火葬や埋葬については知っているけど、市役所に行ってなにをすべきなのかは知らないという人も少なくありませんし、本記事の趣旨とはやや異なりますが、【犬の死に関わること】として一緒に解説します。
さて、それでは市役所で何をするのかについてですが、死亡届を提出します。より具体的に言えば【飼い犬が死んでから30日以内に役所にて死亡届を提出、および鑑札を返還】する必要があります。実はこれ、メジャーなペットの中では犬のみの手続きなのです。
というのも犬には【狂犬病予防法】によって狂犬病予防のワクチンを摂取させる義務があり、期間内に入ると自宅に通知が来ますよね?市役所に死亡届を提出しないと、行政が犬の死を確認できていないため、亡くなったあとも通知が出されます。
当然、飼い犬は既に亡くなっているためワクチン接種ができません。しかしその場合は報告していなかった飼い主の責任として、狂犬病予防法違反として20万円以下の罰金が課されます。死亡届は市役所での手続きの他、市によってはインターネットと郵送でも出来るようになっていることがありますので、もし市役所に行くのが辛い場合はこちらで手続きしましょう。
犬の死にちゃんと向き合おう
人もペットも、生物はみんな死に向かって生きています。しかし、だからこそ残された時間で精一杯生きようと努力できるものです。「もっと遊んであげれば」、「もしかしたら安楽死させた(させなかった)方が良かったのか」など後悔してしまうことは山ほどでてくるでしょう。
それでも、【死】を意識してちゃんと向き合うことで、その後悔を少しだけ減らせることはできます。飼い主として、愛犬のためにできることをする__それだけで市に向き合っていると言えるのだと筆者は信じております。