野良猫を待ち受ける過酷な環境と私達ができること

町を徘徊する野良猫、皆様はどう思いますか?可哀想、猫が嫌いだから鬱陶しい、あるいはただ猫が歩いていて可愛いという人もいると思います。しかし、野良猫の真実を知る人達は恐らく口を揃えてこう言うはず……野良猫のまま終わらせないでくれと。

今回は野良猫が町に与える被害や地域猫活動、野良猫を保護する方法など、野良猫について解説していきます。

野良猫が与える被害

野良猫がここまで問題となっているのは、猫が可哀想だからという理由だけではありません。放置していると急激に数を増し、糞尿等の様々な被害が出てしまうのです。

ここでは野良猫が町に与える被害について解説します。

猫は繁殖力が非常に高い

野良猫はおよそ3年足らずで亡くなる事が多く、そうでなくとも病気やケガでズタボロな猫がほとんどだと言われています。にも関わらず、なぜ野良猫は増え続けるのか?答えは単純明快、猫の優れた繁殖能力にあります。

繁殖力が高いとはどういう意味か。大まかに分ければ【性成熟が早くすぐに子供を作れる】【妊娠率が高い】【繁殖期が長い】この3点になるかと思います。実は猫はこの重要な3点を全て満たしているのです。

メス猫はおよそ3ヶ月で性成熟を終える場合もあり、更に生殖行為時に排卵するため妊娠率はほぼ100%。繁殖期は年に2回程度ですが、実は猫の繁殖期は日光によってコントロールされており、都会の様に一日中明るい所では一年中繁殖期という事もあり得ます。

環境省によると計算上では、メス猫1頭が1年で20頭、2年で80頭にまで増える事が可能とのこと。猫はあくまで種の存続の為に本能で繁殖行為をするため、自分でコントロールできません。私達が動かなければ、多くの野良猫が過酷な環境へと放たれるのです。

野良猫による被害

野良猫も1匹2匹ならいざ知らず、繁殖力の高さ故放っておくとどんどん数を増し、それに比例して無視できない被害も出てきます。環境省が公表したデータを参照すると、最も苦情が多いのがやはり悪臭問題。糞尿や猫の死骸、生ゴミを漁った後など、時として耐え難いほどの悪臭を放ちます。また、その他にも畑や庭を荒らされたという報告も多いです。

また、一般人である私達にはおよそ想像しにくいものですが、子猫を狙って他の動物がやってくる事もあるそう。実際、2022年6月に三重県にて高齢者夫婦が野良猫を不適切飼育していた事が明らかになった時の事。去勢・避妊手術をしないまま餌やりを行ってしまい野良猫が繁殖。子猫を狙ってアライグマまでやって来たとのことで、外来種問題にも少なからず影響を与えている可能性があります。

野良猫を減らす活動

野良猫は私達の身勝手な理由で生まれた存在、しかしだからと言って放置するわけにはいきません。なるべく野良猫が幸せに、かつ数を確実に減らしていく活動が必要です。

ここではそんな地域猫活動について解説します。

野良猫に待ち受ける残酷な世界

野良猫は元々人間に飼われていた元飼い猫達というのをご存知ですか?そう、彼らには外の世界での居場所がないのです。そもそも現代の猫は、古くからネズミ退治の為に人間の側で飼われていた歴史を持ち、ネズミを追う狩猟本能こそ残っているものの、1匹だけで生き抜くための力そのものはかなり薄くなっているとのこと。

柔らかい布の上で、栄養価の高いご飯を食べ、安全な室内で寝ていた猫達。しかし人間のエゴで捨てられた元飼い猫は、硬い地面の上で、仕方なく生ゴミを漁り、いつ襲われるかも分からない地面で寝るという生活を余儀なくされてしまった。ひどい環境に身を置いた身体はいつしか感染症に蝕まれ、野良猫同士の喧嘩で更に感染症が広まり、最後にはズタボロになって死んでいく。それが野良猫となった彼らに待ち受ける世界なのです。

地域猫活動とは?

地域猫活動は悲惨な結末しかやってこない野良猫達を少しでも減らしつつ、今生きている野良猫を地域で面倒見る事でその生を全うさせようという試みです。行政や各区市役所との連携こそあるものの、基本的には地域に住まう住民達が主軸となって機能しています。

餌やりを続けたい人、猫が嫌いな人、猫による被害を受けている人など、様々な人が地域には住んでいます。その人達とも出来うる限り話し合い、【野良猫を減らす】という一つの目的の為に理解・行動していくのが地域猫活動の本質です。

TNRとは?

地域猫活動の主軸かつ最も重要なファクターを占めているのがTNR(Trap Neuter Return又はRelease)。即ち、捕まえて(trap)、手術をして、元の場所に戻す行為です。現在の野良猫の根本的な問題は、繁殖力の高さによる野良猫の増加。どれだけ今いる野良猫達を救う活動をしたとしても、野良猫がそれを上回るレベルで数を増やしてしまったら意味がありません。

そのため、地域猫活動はまず野良猫を捕獲して去勢・避妊手術をする事から始まります。これにより、その野良猫は1世代限りとなり、子孫が増える事を阻止できます。また、手術をした猫はその証として耳の先端を小さくV字カットします。

地域猫活動とはズレますが、飼い猫も繁殖の予定が無ければ去勢・避妊手術が推奨されています。万が一脱走したとしても繁殖を防げますし、発情期特有の鳴き声やマーキングも阻止できますよ。

地域猫活動の課題点

地域猫活動は野良猫を減らす為に推進していきたい活動である一方で、地域住民の理解が大前提である事、野良猫を完全にコントロールする事は不可能な事から様々な課題点が残っています。

地域住民の中には地域猫活動を盾に間違った飼育を行う者も多く、特に手術だけをして放置、勝手に餌やりをして後は放置など、いわゆる【やりたい事だけやって後は地域任せ】が問題となっています。また、そもそも理解を得られずに猫を虐待するという酷い人達も少なくありません。

何より、地域猫活動をしたとしても完全に野良猫を抑えられないというのが最大の問題点。地域にいる野良猫全てに手術を施したとしても、外部から野良猫がやってくる事も多いですし、中には地域猫活動をしているからとそこに猫を捨てるケースも報告されています。

他にも糞尿を掃除するにしても、人の敷地内には入れないため放置せざるを得ないでしょう。ルールの元餌やりをしたとしても、現実問題【すべての猫に餌を与えている】のと同義なのも問題点です。

地域猫活動は少しずつ前進しているものの、未だ【やらないよりマシ】の範疇を出ません。だからこそ、これからもより良い方法を議論し合い、最適な結論が出るよう、私達が率先して地域猫活動をしていく必要があるのです。

野良猫を保護したい

猫好きな方の中には、野良猫を保護してあげたいと思っている人も多いのではないでしょうか?野良猫が本当に野良だった場合、資金や責任を自分が持つのであれば、野良猫を保護するという選択肢も十分にできます。

ここでは野良猫の捕獲方法や最初にすべきこと、野良猫との生活のしかたについて解説します。

野良猫の捕獲方法

野良猫を捕獲したい場合、大前提として成猫は警戒心も強く捕獲が困難、子猫は親猫がいないかよく確認する必要がある、という事は覚えておきましょう。また、そもそも本当に野良猫なのかどうか、事前にSNSや掲示板、保健センターにしっかり連絡して確認してください。もし飼い猫だった場合、状況次第では窃盗罪と見なされます。では、ここからは有効的な捕獲手段を2つご紹介していきます。

・ケージやキャリーバッグで捕獲

人を警戒しない子猫や人懐こい猫に有効的な方法で、餌で猫を上手く誘導して捕獲します。比較的スムーズに捕まえられますが、捕獲した瞬間に暴れる猫もいるため、捕獲したからと油断しない事が大切です。

・捕獲器で捕獲

人を警戒する猫に有効的な方法で、設置型の捕獲器を人目につかないかつ普段から猫がいる場所に設置します。捕獲器は動物病院や保護団体でレンタルできる場所もあるので、問い合わせてみましょう。また、飼い猫や他の猫が入ってしまわないよう、事前に周囲に通知しておくとスムーズかつトラブル無く実行できます。

また、どちらの方法も猫がお腹を空かせていないと捕獲できません。餌やりをしている場合は餌を与えずに空腹状態にさせましょう。

野良猫を保護したら

野良猫の捕獲に成功したら、すぐに動物病院で診察を受けませましょう。感染症にかかっている可能性がある他、ノミやダニに噛まれている事もあります。ただし、予め動物病院に連絡を入れておきましょう。動物病院には他にも動物がいますし、野良猫が感染症にかかっていた場合、集団感染の恐れがあるからです。

また、そもそも野良猫の受け入れを拒否している病院もあります。それらを含めて確認し、来院の方法(来院時間など)の指示を仰ぎましょう。

元野良猫との生活

捕獲、診察を終えたらいよいよ猫と一緒に暮らしていくわけですが、元野良猫との生活はそう簡単なものではありません。ペットショップやブリーダーの猫は人間の近くで暮らしているため、極端に人を警戒することはありませんが、野良猫は違います。元々餌やりを行っていたり、子猫の場合は懐きやすいですが、警戒心の強い成猫を手懐けるにはかなりの時間を要する事でしょう。

とにかく元野良猫との生活は根気が必要です。少しでも苛立ってしまったり、キツく当たってしまうとそれだけで培ってきた絆が一気に崩れ、更に警戒してしまうでしょう。焦らずゆっくり時間をかけて、出来ることを一つずつ増やす事を心がけてください。

何より一度保護すると決めたのなら、最後まで責任を持つ事が大切です。貴方が拾った小さな命、ぜひ立派に育て上げてください。

野良猫とどう向き合っていくか

本来、野生動物は自らと仲間の力で厳しい自然環境を生き抜くだけの力を持ち合わせています。もちろん、中には早めに死んでしまう動物も多いですが、それでも人間が手を加えない限り極端に早死する事はないでしょう。しかし、野良猫は違います。

野良猫は元々飼い猫、飼い主ありきで生活を送っていた猫達です。それはいわば、小さな子供が突然親に捨てられ、外に放り出されたようなもの。生き残れない方が普通です。現に野良猫達は3年、長くとも5年以内に死んでしまう事がほとんど。

地域猫活動や野良猫の保護……私達人間のエゴで捨てられた野良猫達なら、私達が出来ることで助けていく事が道理というもの。猫好きならボランティアに、猫が嫌いでも強く当たらずに侵入防止の策を考える、それだけでも十分に意味があるのです。まずは小さな事から始めましょう。

                               

メモリーズ北九州コラム